『でんしゃが まいります』 秋山とも子 さく
新宿駅の5・6番線ホームの一日を描いたこの作品。
まだ日も昇らない夜明け前に、大量の新聞紙がトラックいっぱいに運ばれて来る絵から始まる。
朝・昼・夜。時間帯によって客層が変わったり、いろんな人がいろんな仕事をしていたり。
ストーリーは淡々と進んでいくのだけれど、ページいっぱいの挿絵の中では、お客も、働く人々も、思い思いに何だかかんだかやってて、たくさんの人の、それぞれにその瞬間を生きている姿が細かく細かく描かれている。
知らなかった駅の裏側を知ることができるのもいい。車掌さんのアナウンスが書いてあって、ちょいと鼻にかけて読み上げてみれば、完璧に車掌さん気分になれるのもいい。電車好きはもちろん、電車が好きじゃなくったって、何かしら引っかかる嬉しさがあるのがいい。
読み聞かせも楽しいけれど、一人でじっくり眺めたり、少人数であーだこーだ楽しいところを見つけながら読むのにぴったりだと思います。息子はなぜか無心で小学生の人数を数えていた。笑
たのしー!
NHKの番組でドキュメント72時間ってのがあるけれど、それに近い感覚かも。定点観測的な。人間模様を味わう1冊。
絵も、お話も、今の子どもたちからすれば、ちょっと古い感じがするかもしれないんだけど、それが、なんともはや、懐かしい。ちょうど私が子どもだった頃くらいの感じ。
子どもの頃となりのトトロを観てたら、母が「お母さんが子どもの頃の時代のお話だなぁ~」というようなことを言っていて、まさにそういう感覚なんだろうなぁ~と思った。
ファッションセンス、ヘアスタイル、暮らしの道具たち。小学生だったあの頃。全てが新鮮だったあの時も、ちゃんと、もれなく、過去になる。
なんだか、くわっと胸の奥が熱くなってしまう。
それにしても、人々が大口を開けて笑い、喋り、のびのびと行き交う様子が眩しくて、ギュウギュウ詰めのホームを見てたら、つい「密です!」なんて思っちゃう自分がいて…
本当に、切ない。
こんな呑気な毎日が、また来るのかな。
来てほしいな。
神様。
『でんしゃが まいります』 2014年(月刊「こどものとも」は1990年)
発行所 福音館書店
秋山とも子 さく