『いつか、きっと』
ティエリ・ルナン 文 オリヴィエ・タレック 絵 平岡 敦 訳
次男が産まれる少し前のこと。
「大人のための絵本よみやさん」の香さんが、再びお友だち限定で絵本の貸し出しをしているとのこと。
お願いしようかなぁ、でも、もしかしたらそろそろ産まれるかなぁ…と尻込みしていたら、なんと香さんから別件でお手紙が!封筒の中には、香さんの地元の安産祈願のお守りも…。
今思えば出産が近づいていたからなのか、心身ともに調子が落ち込んでいたのだけれど、お手紙を読んだら、もう、嬉しくて、嬉しくて…とにかくお願いしちゃおう!!と、お返事と同時に貸し出しをお願いし、香さんセレクトの3冊の絵本が、我が家に届いたのでした。
ところが結局その後1週間くらいで息子が産まれてしまって、お返しするのがとんでもなく遅くなってしまったという結末…本当にゴメンナサイ!!
でも、やっぱり、貸していただいて、本当によかった。
絵本たちと出会ったときの想いを振り返りながら、少しずつ、ご紹介していきたいと思います。
1冊目は、『いつか、きっと』。
作者は、フランス生まれのティエリ・ルナンさん。教育の仕事に携われた後、作家となられたのだそう。
表紙には、赤地に咲き乱れる花々の真ん中にぽつりと座っている一人の子ども。
子どもは、世界を眺めて、考えていた。
「戦う兵士たちがいる。
それを見て子どもは思った。
いつか、きっと、軍服を明るく塗りかえよう。
銃の先を、小鳥の止まり木に、
羊飼いの笛にしてしまおう。」
「飢えに苦しむ人がいる。
それを見て子どもは思った。
いつか、きっと、投げなわで雲をあつめ、
砂漠に雨をふらせよう。
とうとうと流れる川をひこう。」 ・・・(本文より)
畳みかけてくる悲しくなるような現実と、それを豊かに、たくましく、突き返す想像力。
しなやかで、決して折れることのない、希望。
グサグサと胸に突き刺さってくる言葉たちと、全てをすくい上げるようなドラマチックなラスト。
…そうだ。
私も、子どもの頃は、いつも、平和を、愛を、願っていた。信じていた。誰もが悲しい思いをしない世界を、本気で描いていた。皆で手を繋ぎ、仲良く暮らす…どうして大人はそんな簡単なことができないのかと思うことさえあった。
大きくなってくると、いろんな考えをもつ人がいることが分かって、全員が全員、分かり合えることはとても難しいことなのだと思うようになった。
自分の愛しいもの、大切なもの、誇りのために、犠牲を払うのは仕方のないことなのかもしれないと、諦めることができるようになってしまった。
それでも、また、新しい子どもは、命は、よどみなく、希望をもって生まれてくる。
明るい未来を、描いていく。
悲しい世界にも「いつか、きっと」光が差すことを信じて、何度でも、喰らいついていく。
その希望が続いていく限り、やっぱり、どうしても、世界は、素晴らしく、美しいのだと思う。
缶コーヒーのBOSSのCMに「このろくでもない、すばらしき世界」というキャッチコピーがあったけれど…本当にもう、素敵な言葉だよねぇ。かっこいい。
…うん、そうだ。なんか、そんな感じ。
次男が産まれる前に読み、産まれた後にも読ませていただき、このタイミングで読めたことが、すごく貴重な一冊でした。
絵本をおすすめしていただくこと、って、贈り物をいただくことなんだなぁ。
世知辛くも美しいこの世界に、生まれてきた君よ。
厳しさに、虚しさに、打ちひしがれることがあっても、どうか希望を、愛を、温もりを携えながら、強く、たくましく、生きていってね。
私も、負けずに、そうありたいと、思います。
『いつか、きっと』 2010年
発行所 光村教育図書
文 ティエリ・ルナン
絵 オリヴィエ・タレック
訳 平岡 敦