『10人のゆかいなひっこし』 安野光雅
安野光雅さんの訃報が届きました。
ニュースで見て、「あれ…あの、素敵な地球の本を書いた人だ…!」というのが第一声。
と言うのも、不勉強な私は安野光雅作品をぜんぜん通ってこなかった。ちょっと前に幼馴染の友達がブログで子どもの頃読んだ絵本のことに触れていて、その中のお気に入りに安野光雅さんの作品もあったのだけれど、私は『まるいちきゅうのまるいちにち』を読んだ直後くらいだったから、へぇ~、やっぱり有名な人なんだぁ…と思った、というくらい、全然、彼のことを、知らなかった。
そこへ飛び込んできた訃報。絵本愛好家の方々のインスタを見れば、続々と哀悼と深い愛の投稿が…。これは、読んでみたい、触れてみたい、と思ったのです。
今回手に取ったのは、『10人のゆかいなひっこし』。
表紙には三角屋根のお家。裏表紙には四角屋根のお家。
よ~く見れば、小さく“美しい数学Ⅰ”とある。
見開き1ページ目には、
「まず この ほんを おしまいまで みて ください。」(本文より)
この1文から始まって、文字がズラリと並んでいる。絵本の読み進め方、楽しみ方が、書いてあるみたい。
ふむふむ、なるほど。では、まずは取り急ぎ“おしまいまで”読んでみようじゃないか、と、ページをめくっていけば、あれれ、ひたすら、絵。絵。絵。ひたすら、お家と、子どもたち。なんだかお家の窓はところどころくり抜かれていて、しかけのある絵本になっているみたい。
最後のページまで見たけれど、やっぱり、ぜ~んぶ、絵。
そこで、また、最初のページに戻って、本文を読み直してみる。
「この ページの こどもたちの うえに、ひとつずつ おはじきを おいて
その おはじきを かぞえて みて ください。
この おはじきは あとで きっと やくに たちますよ。」(本文より)
淡々と、それでいて好奇心をくすぐられるような語り口。
左側の三角屋根の家に住んでいた10人の子どもたちは、右側の四角屋根の家に引っ越すことになり、1人ずつ順番に引っ越しをはじめたのだという。
そうか、この本は、引っ越しをする子どもたちの数を数えながら遊んでいく本なんだ。
ではでは早速、おはじき(…は我が家に無いので、硬貨で代用。笑)を置いて読み進めてみる。
最初は、三角屋根の家にいる子が10人。余っているおはじきは0枚。だから、四角屋根のお家にいる子は、0人。
…そうね、四角屋根のお家はまだ、がらんどう。
次は、三角屋根の家にいる子が9人。余っているおはじきは1枚。だから、四角屋根のお家にいる子は、1人。
…本当?と、めくってみれば、大正解!少年が1人、やぁ、と顔を出す。
その次は、三角屋根の家にいる子が8人だから、四角屋根のお家にいるのは2人。
その次は、三角屋根の家にいる子が7人だから…
最後の解説を読めば、“10という数をいろいろに分解して考える遊びによって、子どもに数と量の感覚を身につけさせることがこの本のねらい”と書かれていた。
“1と9で10”、“2と8で10”、“3と7で10”…
10の構成というのは、小学校低学年の算数では、すごくすごく大切な考え方。それを絵本で遊びながら考えていくことができる。
就学前の子どもが10までの数に触れられるように、という前提で描かれているので、小学校に入る前にこの絵本に出会って、その考えが理解できたら、すご~く、素敵なことよね。
同時に、いくつといくつ、の学習の補充として、1年生に読んであげるのもいいなぁと思いました。
息子とおはじきを使わずに読んだ時も、
「今、こっちのお家には何人いると思う?」と聞くと、目に見える人数を数えて、10人になるにはあと何人…というのを自分なりに数えて、ちゃんと答えが出せていた。わ~お!これ、引き算じゃん!
窓が開いているから窓から見える子の数をもとに見えない子の数を推測することもできるし、男の子5人・女の子5人で構成されているから、男女に注目して5の分解にも触れられるんだって。レベルアップの術がいろいろ隠されているのも、なんだかもう、アカデミック!ワックワク!何度でも楽しめるんだなぁ。面白いなぁ。
絵がまた、いいのよね。お家が、ま~た素敵で、子どもたちが、ま~たかわいいのよ!
緻密で、行き届いていて、そんでもって、朗らかな絵。
あぁ、とっても上質な絵本だなぁ、と、今、出会えてよかったなぁ、と、しみじみ味わえた1冊でした。
安野さん、素敵な絵本を、本当にどうもありがとうございます。
安野作品、これからも読んでいきたいな。
安野光雅さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
『10人のゆかいなひっこし』 1981年
発行所 童話屋
作者/安野光雅