『くんくん、いいにおい』 たしろ ちさと え
クラッカーの敷き詰められた表紙に、くんくん匂いをかいでいる男の子と犬。
この背景、旧ヤマザキナビスコのプレミアムクラッカーらしいよ!
ちなみに私は時々沢口靖子のモノマネをするんだけど“ルヴァン、ヤマザキビスケット”の一節だけ似てるって家族が褒めてくれたよ!ふふ。
さて、その二人の幸せそうな表情はクリムトの『接吻』すら思い出させる。かわええ~。さぞかしイイニオイなんでしょう。ニオイってカタカナで書くと臭そうだな。いいにおい。イイニオイ。どう?
The Sense of Smellって書いてあるし、フォントもそれっぽいし、外国の絵本かなぁ、と思ったら!日本の絵本でした!ワオ!
男の子と犬がくんくん匂いをかいでいる。その先にあったのは、焼き立てのパン。
あぁ~、いいにおい。
くだもののにおい、ごはんのにおい。
うれしいにおい、きもちいいにおい、たのしいにおい。
気持ちにも、匂いって、あるのかなぁ。あるのかも。
おとうさんのにおい。おかあさんのにおい。安心する匂い。
匂いは、記憶と強く結びついている。
音楽室の匂い。部室の匂い。学校の匂い。おばあちゃん家の匂い。
♪ドールチェアーンドガッバーナーの…
まさにですね。
ページをめくると、本当にその匂いを感じられるような気がした。特に私が強く感じたのは、お味噌汁の匂い、ご飯の匂い、お魚の匂い、あったかいお湯の匂い、鉄の匂い、土の匂い、海の匂い。息子は、どんな風に感じて読んでいたんだろう。
まるで本物のパンの匂いを嗅ぐように本の匂いを嗅いでいた彼は、パンの匂いを、その安心感を、思い起こしていたのだろうか。
奥付には“BOOK OF SENSE SERIES①”と書いてある。調べてみたら、他にも聴覚、味覚、触覚、視覚、感覚に訴えるシリーズがあるみたい。感覚を育てていくって、素敵なこと。
そういう意図のようなものが、覚悟のようなものが、感じられる1冊でした。
うん。もう一度パラパラめくってみたけれど、やっぱり匂いが呼び覚まされていく…!!!
すごいねぇ、絵って。すごいねぇ、人間って。
『くんくん、いいにおい』 2006年
発行所 グランまま社
絵 たしろちさと