『よこいしょういちさん』 ぶん・え かめやまえいこ
黒地白抜きのインパクトのある表紙。
今、「横井庄一さん」を知っている子どもはどれだけいるのだろう。
横井庄一さんは、終戦を知らされないまま、太平洋戦争終結から28年間、グアム島で身を潜めながら暮らしていた。
著者のかめやまえいこさんも、巻末で
“ほんの数年前まで、私は横井庄一さんのことを、「長い間、ジャングルで暮らしていた人」というくらいしか知りませんでした。”
と書いていた。
私も、横井庄一さんと言えば、とんねるずのタカさんが、うたばんか何かで椅子にヨッコイショって座るときに「よっこいしょういち」って言うギャグをやってて、横井庄一さんって誰なんだろう…と思ったのが小学生くらいの頃。その後、長い間森の中で生き抜いて日本に帰国し、自分の生まれる何年も前に大変話題になった方なのだということを知った。
三十路の私でさえこんな調子なのだから、今の子どもたちは知らない子も多いだろう。
インパクトのある表紙をめくると、ビビットな黄色地に黒文字で、表紙と同じ切り絵の表題。そのページ以外は、白と黒の切り絵の世界。
生い立ちから、戦争による想像を絶する体験、生き抜いた日々のこと、発見され日本に帰った後のこと…横井庄一さんの生涯が、平和への願いが、丁寧な言葉で綴られている。
戦争のお話って、難しかったり、怖かったり、避けたくなるような内容だったり、想いが込められるあまり思想が傾いてしまったりすることがあるように思うけれど…このお話は、文章がすごく優しいなぁと思う。読んでいて、無駄に辛いということがない。心に寄り添いながら、ちゃんと一歩下がったところから、その様子や想いを伝えてくれる。もちろん、ショッキングな部分も皆無というわけではないのだけれど…言葉の優しさに包まれて、悲惨な事実以上に、横井庄一さんの強さを、優しさを、愛を、強く感じる一冊になっている。素敵だ!
小学生が読むのにぴったりなお話だなぁと思いました。教材に載りそう。もはや載ってそう。
お話の最後に記されている横井さんの詠んだ歌を読み、今の自分の生活がいかにありがたく、幸せなものなのか…ぐぐっと胸に迫って来るものがありました。
作者のかめやまえいこさんのプロフィール欄は、
“「全国の図書館に『よこいしょういちさん』を置いてもらう」という横井庄一夫人、美保子さんとの約束を果たすため奮闘中。”
と締めくくられていた。それだけの想いが、念が、込められた作品なのね。
全編白黒のお話を読み終わってページを閉じると、背表紙の3つの色づいた花が印象的に目に飛び込んでくる。これは未来への希望の祈りか。苦しみや悲しみに手向けられた花なのか。それとも、必死に命の花を繋いだ横井さん、志知さん、中畠さんの3人ご自身なのだろうか。
8月も、もう終わり。
心に留めておきたい1冊です。
『よこいしょういちさん』 2020年
発行所 KTC中央出版
文と絵 かめやまえいこ