『あんぱんまん』 作・絵 やなせ・たかし
丸いお顔にツヤテカのお鼻とほっぺ。手袋、ブーツ、ベルトにマント。
ニッポンジンなら、知らない人はいないと言ってよいだろう、アンパンマン。
ベイビーズなら絶対通る道、アンパンマン大好き期。
いつも自信に満ちていて、ハリのある声。あんこがぎゅうぎゅうに詰まったピッカピカの顔。
でも、この絵本のあんぱんまんは、体はひょろっと細長く、マントもつぎはぎだらけ。表情も、あのパッチリおめめの元気はつらつなアンパンマンとは、ちょっと違う。
あんぱんまんは、砂漠の真ん中でお腹が空いて倒れている人、森の中で道に迷ってしまった男の子を助け、自分の顔を分けてあげる。最後にはひとかけらも残されず、すっかり食べられながら…。
「おじさん」という名前で、ジャムおじさんも登場。アンパンマンの顔には、ジャムおじさんの優しさと愛情がたっぷり詰まっているのね。だからこそ、食べた人が元気になれるんだな。
身を削り、ボロボロになってでも、相手を助ける。
バイキンマンに対しても、罪を憎んで人を憎まない。
アンパンマンに著される本当の正義。
かつての道徳の教材にも載っていた、やなせさんのあとがきが、とっても胸に染みる。
(あとがきより)
「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。」
「さて、こんな、あんぱんまんを子どもたちは、好きになってくれるでしょうか。」
…超好きになってます!伝わってます!!!
この絵本には、バイキンマンは出てこない。アンパンマンが戦うのは、飢えや孤独。やなせさんの強いメッセージが込められている。
夫がクラスで読み聞かせたら、5年生も真剣に聴いていたそうです。
やなせたかしさんって、す~んごい有名で、作品も多くて、若いときからバリバリ☆アンパンマンを描いてきたのかな、って思っていたのだけれど、初めて「アンパンマン」を発表したのは、1969年。やなせさんが50歳の時だったそう。そこから、94歳で亡くなるまで、子どもたちのために、素晴らしい作品を生み出し続けてきたのね。叔父が仕事でやなせさんとお会いしていたのですが、お年を召しても少年のようにキラキラと目を輝かせる、素敵な方だったそうです。
ヒーローとして、自分の顔を分けてあげるという優しさ、強さ、その斬新さ。アンパンマンを知らない人に、この本を、1冊の絵本として、最初に読んでみてほしいなぁと思う。どんな反応をするだろう。どんなに、胸を打たれるだろう。
…今、日本で生活している子は、1、2歳でだいたいアンパンマン大好きになっちゃうから、難しいかもしれないけどね!笑
『あんぱんまん』 1976年
発行所 フレーベル館
著者 やなせ・たかし