『字のないはがき』 向田邦子=原作 角田光代=文 西加奈子=絵
見よ!!この豪華な作り手を!!!
私は何年か前にものすごく黒柳徹子さんにハマって、徹子さんの本を読みまくっていた。向田邦子さんと徹子さんはとっても仲の良いお友達で、何かと話に出てくる。
最初、私にとって、向田邦子さんといえば、飛行機事故で亡くなってしまった作家、という印象だった。
中学や高校時代の授業中、暇だな~と思うと、国語の便覧をベラベラとめくって、中原中也イケメンだな、とか、三島由紀夫やべー奴だなとか、草野心平は間寛平に似てるけど名前が似てるのは関係あるのかなとか、愛人と心中する奴多すぎだろ、とか、とにかく、いろんな作家の写真やらエピソードやらを、ぼーっと眺めるのが好きだった。便覧に載っている名作なんて、もう、全くと言っていいほどに読んだことがないけれど、載っていた作家たちの、顔と、名前と、死因とかは覚えていたりする。…不謹慎です。ごめんなさい。
私の使っていた便覧に載っていた向田邦子さんの写真は、とっても意志のある眼差しが印象的で、なんだか、それが悲しく、怖いほどで、さぞ、急に亡くなってしまったことを悔やんでいるのだろう、と、思ったものだった。
そんな向田邦子さんが、今もキラキラ輝き続ける黒柳徹子さんの親友だったなんて!
NHKのトットてれびでミムラが演じた向田邦子さん、素敵だったな。
さて、そんな向田邦子さんが原作のお話。家族との思い出を綴ったエッセイ『眠る盃』に「字のない葉書」というお話が収録されているという。
そのお話を角田光代さんが書き、西加奈子さんが、描いている。西加奈子、絵かよ!!!西加奈子の無駄遣い!いや、嘘、嘘。絵がまた、とっても素晴らしい。
戦争が激しくなり、一番ちいさな妹も、とうとう疎開することになった。
お父さんはたくさんの葉書を用意して、字の書けない妹に、元気な日には葉書に丸を書いてポストに入れるように言うのだけれど…
この妹、というのは、向田邦子さんの一番下の妹、和子さんのことだという。
戦争のお話というのは、誰かが死んでしまうことが多い。このお話も、きっとそうだろう、と私は覚悟していた。でもね、大丈夫。お話の中で、誰も命を落とすことは無いの。でも、だからこそ、生きていてくれたからこそ、胸が、ギューっと締め付けられる。子どもが戦争に巻き込まれるということが、どんなに残酷なことか。元気で、生きていることが、どんなに尊いか。
終戦からもう75年。
私が子どもの頃は終戦50年、というのが印象的で、まだまだ50年なんだ、って、私のお父さんやお母さんは、本当に戦争が終わって10年やそこらで生まれたんだって、目の前にいる優しいおじいちゃんやおばあちゃんは、あの悲惨な出来事を体験した人たちなんだって、なんとなく、まだ、自分事として捉えることができたような気がする。でも、時が経ち、いろんな、悲しいこと、苦しいことがたくさん起きれば起きるほど、それは、遠くへ、遠くへ、押しやられてしまうみたいに感じる。おじいちゃんも、おばあちゃんも、あの頃みたいに戦争の話をしたりしないしね。
だからと言って、平和ボケしてる、なんて思わない。
むしろ、今の子どもたちなんて、きっと、十分過ぎるほどに、いろんな“大変なこと”に、たくさん触れて、必死に想いを巡らせて、生きているのかもしれない。
戦争。災害。疫病の流行。世界は、どうなるんだろう。どんな世の中になってしまうのだろう。
ひらがなで書かれているので、小さい子にも、易しく読める。
美しい、伝わる、文章。読み聞かせにもぴったりだと思います。
本書の最後に載っている写真の向田邦子さんは、もちろん、強さも、かっこよさもあるんだけど、風をまとって、ふわっと笑っている。素敵な素敵な、写真。
ああ、こんな表情もするんだ。
読み終わった私の心に、さわやかに、すーっと染み込んでいくようでした。
『字のないはがき』 2019年
発行所 小学館